建設工事でのCO2削減とは?
カーボンニュートラル・脱炭素の基本や取り組みも紹介

平均気温の上昇に伴い、地球環境の保護は世界的に大きな課題です。社会全体での環境保護活動が促進されており、「カーボンニュートラル」や「脱炭素」の言葉を耳にする機会が増えました。

大企業はすでにカーボンニュートラルに向けた取り組みを進めていますが、自社では具体的にどう取り組むか悩んでいる企業担当者も多いでしょう。

この記事では、CO2削減の基本から建設業での具体的な取り組み事例、国の補助金制度も解説します。自社のCO2削減を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。

CO2削減はなぜ必要?


CO2削減は、日本が脱炭素化やカーボンニュートラルを達成するために必要な取り組みです。

2015年のパリ協定では、各国が5年ごとに目標を提出・更新する義務があり、地球の平均気温上昇を抑えるため、世界的に努力が求められています。

日本の最新の目標(2020年3月)は以下のとおりです。

  • 2030年度に、2013年度比で26%、2005年度比で25.4%の温室効果ガス削減
  • 中長期的に、さらなる温室効果ガス削減の努力を追求する

さらに、2021年4月のアメリカ主催の気候サミットで、日本は2030年度までに温室効果ガスを2013年度比で46%削減を目指すとともに、50%削減に向けて挑戦し続けることを表明しました。

特に建築物分野は、空調や設備使用で日本のエネルギー消費量の約3割を占めるため、「建築物省エネ法」が制定されました。

建築物省エネ法の一例は、以下のとおりです。

  • 新築や増改築する建築物の省エネ性能が、義務として定められた省エネ基準を上回るよう努力する
  • 1年間に一定戸数以上の住宅を供給する事業者は、新しく供給する住宅の平均基準が国の定めた基準を満たすよう努力する

世界的な気温上昇に国として対応するために、カーボンニュートラルの達成を目指してCO2を削減する必要があります。

「カーボンニュートラル」と「脱炭素」の意味や違い

カーボンニュートラルと脱炭素は、ともに炭素に関わる言葉ですが意味が異なります。

「カーボンニュートラル」が温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにするのに対し、「脱炭素」は二酸化炭素の排出量がゼロの状態を指します。

日本では、2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言しており、目標達成のために各業界で様々な取り組みが行われています。

建設業界では、2024年5月に国土交通省がCO2排出量試行ツールを作成し、配布しました。CO2排出量試行ツールを活用すれば、建築から解体まで建物のライフサイクル全体を通じたCO2排出量を算出でき、建築物のCO2削減に役立ちます。

建設業界のCO2排出量の現状


建設業界のエネルギー起源CO2排出量は、2021年度データで800万トンに達し、産業部門全体の3億7,300万トンのうち2%を占めます。特に、工事で使うブルドーザーやクレーンなど建機からのCO2排出量が多く、大きな課題です。

建設後の建築物利用も含めると、建設業界は日本のエネルギー消費量の約3割を占めます。環境に配慮した建材の利用や、CO2排出量の少ない建機の導入など、建設業界でのCO2削減の重要性は高いです。

建設業でのCO2削減工事や行動の取り組み事例


建設業として現場や事務所で取り組めるCO2削減の取り組み事例を5つ紹介します。

  • 省燃費運転の励行
  • 次世代燃料の使用
  • 環境に配慮した建材の使用
  • 事務所での節電
  • 事務所の緑化やソーラーパネル設置

省燃費運転の励行

建設工事現場のCO2排出量の約70%は、ダンプや重機などの軽油関連です。省燃費を意識した運転を行うと、CO2排出量を軽減できます。

例えば、トラックの場合は急発進や急停止を避けて、運転や早めのシフトアップ、タイヤの空気圧を適正に保つと良いでしょう。

普段の運転やメンテナンスで気を付けるだけなので、コストをかけずに取り組める他、省燃費運転を実践すれば重機や車両の長寿命化にも繋がります。

次世代燃料の使用

省燃費運転の励行に加え、軽油の代わりとして次世代燃料の使用もCO2削減に有効です。

次世代燃料には、菜種油や大豆油などを原料としたバイオディーゼル燃料や天然ガス由来のGTL燃料が挙げられます。

GTL燃料は軽油と比較してCO2排出量を8.5%削減でき、バイオディーゼル燃料は廃食油からも製造できるため、リサイクルにつながる点がメリットです。

バイオディーゼル燃料、GTL燃料ともに軽油車の改造をほとんどせずに給油可能なため、コストをかけずに導入しやすいです。

環境に配慮した建材の使用

環境に配慮した建材の使用は、建築物のライフサイクルを通したCO2排出量削減ができます。近年では長寿命でリサイクルしやすい建材や、製造時のCO2排出が少ない建材、廃棄時に環境負荷が少ない建材など環境に配慮した建材が増えています。

具体的な建材は以下のとおりです。

  • 自然素材(天然木や漆喰、タイルなど)
  • リユース、リサイクル素材(古材や茶殻、卵の殻などを再利用した内装材など)
  • 省エネ、省資源、建物を長寿命化できる素材(太陽光パネル、未利用資源を使用した建材など)

環境に配慮した建材を利用すれば、建物の建築時だけでなく解体後も環境への負荷を減らせます。

事務所での節電

事務所では、日頃から節電を意識した行動がCO2削減につながります。事務所でできる節電行動は以下のとおりです。

  • 昼休みなど社員が不在になる時間帯はこまめに空調や電気を消す
  • パソコンやコピー機を省エネモードに設定する
  • 業務に支障のない範囲で照明を間引く
  • 夜間や休日はパソコン、プリンターの主電源を落とす

事務所の規模や季節によって異なりますが、1ヶ月のCO2削減量の目安は約43kgです。1回の節電効果は小さいですが、継続すれば大きなCO2削減に繋がります。

事務所の緑化やソーラーパネル設置

事務所の外壁や屋上の緑化や、ソーラーパネルの設置もCO2削減に効果的です。外壁を緑化すると建物の断熱性が向上し、空調効率が良くなるため、空調を控えめに設定しても快適に過ごせます。

また、事務所や駐車場の屋根にソーラーパネルを設置して発電すれば、事務所の電力を一部まかなえるため、電気代のコストカットが期待できるでしょう。

初期費用がかからない「PPA型」と呼ばれる、ソーラーパネルや国からの補助金が下りるケースもあり、コスト面でも導入しやすいです。

建設会社がCO2削減に取り組むメリット


建設会社がCO2削減に取り組むメリットは以下のとおりです。

  • 企業のイメージアップ
  • 長期的なコストの削減

企業のイメージアップ

CO2削減に向けた取り組みは環境に対する意識の高さを社外にアピールできるため、企業のイメージアップにつながります。

近年では環境問題に関心を持つ消費者が増えており、CO2削減に積極的に取り組む企業は好意的に受け止められやすいです。

よって、環境に配慮した取り組みを行うと、企業の信頼性やイメージの向上につながります。

長期的なコストの削減

CO2削減に取り組むとエネルギー使用を効率化できるため、長期的にはコスト削減につながります。

例えば、太陽光発電パネルは導入時に初期費用がかかるものの、会社の電力をまかなえるため、長い目で見るとコストカットが期待できます。

建設業界でのCO2削減の課題点


建設業界でのCO2削減の取り組みには、以下の課題点があります。

  • 効果が目に見えにくい
  • 導入費用がかかる

効果が目に見えにくい

建設業界でのCO2削減は、効果が目に見えにくい点が課題です。特に建設業では、各工事現場でのCO2排出量や日々の取り組みでどれだけ削減できたかを具体的に測るのは難しいです。

また、CO2削減行動でも効果を実感しにくいため、従事者のモチベーションの維持が難しい場合もあります。

しかし、省燃費運転や事務所の電気をこまめに消すなど、CO2削減には一人ひとりの意識や行動が重要です。社内で環境に関する研修を行ったり、CO2削減行動を評価する仕組みを作ったりして、従事者の意識向上に努めましょう。

導入費用がかかる

環境負荷の低い車両や建機、省エネタイプの空調などの導入にはコストがかかります。省エネタイプの製品は従来製品よりも高いケースが多く、導入時のコストが企業にとってネックなパターンが多いです。

しかし、長期的な目線では消費エネルギーを抑えてコストを削減できたり、環境保護への意識の高さが企業のイメージアップにつながったりと、導入コストを上回る効果を得られるケースもあります。

要件を満たせば国の補助金を受けられるため、コスト面でCO2削減の取り組みが後回しにされている場合は検討する価値があるでしょう。

建設工事などで活用できるCO2削減の支援や補助金制度


カーボンニュートラルの実現に向けて、国は様々な支援や補助金を支給しています。

  • 産業車両等の脱炭素化促進事業
  • 民間企業等による再エネ主力化、レジリエンス強化促進事業
  • 建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業
  • SHIFT事業

コストが壁となってCO2削減に向けた具体的な取り組みが進んでいない場合、補助金の利用を検討すると良いでしょう。

産業車両等の脱炭素化促進事業

「産業車両等の脱炭素化促進事業」は建機の電動化を支援する補助金です。国内CO2排出量のうち、建機のCO2排出量は約0.5%を占めます。

2021年度時点で日本全体のCO2排出量が9億8,800万トンなので、うち約494万トンのCO2排出を建機が占める計算です。

建機を電動化すれば排気ガスが出ないため、CO2排出量を抑えられます。建機の電動化を検討中なら「産業車両等の脱炭素化促進事業」の利用を検討しましょう。

民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業

「民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業」は、太陽光発電設備などの再生可能エネルギー導入に関わる補助金です。

この補助金を利用すれば、初期費用がゼロで太陽光発電を導入できるだけでなく、経済的なメリットを受けられます。

また、要件を満たすソーラーカーポート(駐車場を活用した太陽光発電)に対する支援もあります。

再生可能エネルギーの導入に関心のある企業は、「民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業」を利用しましょう。

建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業

「建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業」は、新規・既存を問わず建築物のZEB化を促進するための補助金です。

ZEBとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略であり、消費エネルギー量を大きく削減できる建物をさします。

補助金を受けるには、エネルギーの管理体制を整備し、ZEBの基準を満たさなければならないため、補助金の申請前に基準をしっかり確認しましょう。

「建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業」を活用して事務所や社屋をZEB化すれば、エネルギー効率をアップさせてCO2排出量を減らしながら、光熱費のコストカットも期待できます。

SHIFT事業

「SHIFT事業」は、工場や事業場での脱炭素化のロールモデルとなる取り組みを支援する補助金です。原材料の調達から廃棄に至るまで、CO2を減らすための具体的な行動が求められます。

また、CO2削減計画の策定や、省CO2タイプの設備に取り換える場合の支援が含まれ、事業所の給湯器や空調の取り換えも対象です。

「SHIFT事業」を活用して他社のロールモデルとなれば、カーボンニュートラルに先進的に取り組む企業としてアピールできるでしょう。

CO2削減に取り組むなら
JAPAN BUILDの「建物の脱炭素 EXPO」へ


JAPAN BUILDの「建物の脱炭素 EXPO」は、サステナブル建材、GXソリューション(グリーントランスフォーメーション)、太陽光、蓄電池、省エネ空調、省エネコンサルティングが出展します。

さらに、施設オーナー、ビル管理会社、商業施設や店舗の管理担当者、住宅メーカー、リフォーム会社などが来場する、建物の脱炭素化やカーボンニュートラルに特化した専門展示会です。

毎年東京と大阪で年2回開催しており、併催するセミナーでは最新の業界動向や各社の取り組み、出展社の製品・事例紹介が行われています。

2024年大阪展では、電気自動車のリユースバッテリーを使用して製造工程でCO2削減を行う日東工業 株式会社や、カーボンニュートラルを視野に入れた建材を展示するフクビ化学工業株式会社などが出展を予定しています。

JAPAN BUILD「建物の脱炭素 EXPO」について詳細はこちら

出展をご検討の企業様は、こちらもあわせてご確認ください。
JAPAN BUIRD「建物の脱炭素 EXPO」の出展について詳細はこちら

 

【展示会 開催情報】

<東京展>会期:2024年12月11日(水)~13日(金)10:00~18:00(最終日のみ17:00終了)会場:東京ビッグサイト

<大阪展>会期:2025年8月27日(水)~29日(金)  10:00~17:00 会場:インテックス大阪

【来場希望の方】

<東京展> 12月 東京ビッグサイト開催!

※セミナー聴講には別途お申込みが必要です。セミナー公開は10月中旬予定。

【出展検討の方】

簡単1分で資料請求できます!

パンフレット、出展料金、会場レイアウトなど

建設工事の事例を参考にしてCO2削減に取り組もう


CO2削減に取り組むべき理由や、建設業としてできる具体的な対策、利用可能な補助金などを紹介しました。

地球環境を守るために、建設業のCO2削減は重要です。CO2削減を実施すれば、環境保護ができるだけでなく企業のイメージアップや長期的なコストダウンにつながります。

今後、カーボンニュートラルや脱炭素の考え方はさらに浸透し、社会のスタンダードになると予測できます。業界の流れに取り残されないよう、CO2削減工事や節電行動に力を入れましょう。

また、CO2削減につながる建物の脱炭素化やカーボンニュートラルの観点で販路を拡大したい企業はJAPAN BUILDの「建物の脱炭素 EXPO」への出展や入場をぜひご検討ください。

JAPAN BUILD「建物の脱炭素 EXPO」について詳細はこちら


監修者情報

(株)ローバー都市建築事務所 代表取締役 野村正樹
一級建築士 / インテリアコーディネーター / 宅地建物取引士 / 古民家鑑定士一級

同志社大学法学部を卒業後、京都工芸繊維大学造形工学科へ編入学。(株)NEO建築事務所を経て、2000年「ローバー都市建築事務所」設立。後に、京都工芸繊維大学大学院建築設計学 前期博士課程修了。2006~2018年 毎日新聞京都版 朝刊「きょうと空間創生術」第1回~第274回執筆掲載。

ローバー都市建築事務所の公式ホームページはこちら
https://www.rover-archi.com/

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